リリー・シユウは1988年、中国・ハルビン市に生まれ、幼い頃から文学と音楽に親しみました。日本とイギリスで歴史と哲学を研究した後、詩的空間に広がるイメージを視覚表現に求め、映像と写真作品の制作発表を始めました。その作品には、可視と不可視の政治性に対する批評、写真が持つ独特な平面性と物質性に対する探究が見られます。閉鎖的であった中国の文化環境が飛躍的に発展していく様子を目撃しながら育ったリリー・シュウは、監視的・検閲的な政治的社会環境、そのなかに作られた身体性と行為、個人の在り方と各々の存在の関わり方、その先にある主体性と空間の問題について関心を持ち、制作のテーマとして扱ってきました。

 

作家の思考と制作の原点である初期作品「ABSCURA」は、東京で一人暮らすアパートを舞台に、別居する両親が滞在した三日間に撮影した写真、セルフポートレート、これまで自分が「家」だと考えてきた場所で撮影したイメージによって構成されます。身体と空間が交差する所に生じる認識、誤解、記憶、親密さ、連帯性、アイデンティティーに対する確認と戸惑いなどが表現されます。

 

「CIRCULATION」シリーズでは、植民地としての歴史を持つ国々を訪れ、ポリティカルにも読み取れる「力の構造」が映し出される光景を切り取り、大きく世の中に遍在し渦巻くエネルギーとその表象をコマとシークエンスで浮き彫りにしています。しばしばその中に見え隠れする人間の姿は、風景と一体化しつつ「見ること」と「見られること」を介して存在しています。

 

リリー・シユウの作品において、被写体は常に複数の層と次元に渡って存在し、重層的な意識空間をもたらします。見る人の視線は画面内と強い光沢を持つ質感にこだわった紙面との間を行き来します。複数な平行世界が現われては消え、彼女が体験してきた世界が表象されます。リリーの写真は、いわゆる肖像写真や風景写真、記録写真や構成写真などのジャンルを越境し、フレームの外へ、表象されるイメージの背後へ拡がっていきます。一個人の肌温度を持つイメージを、点と線の感覚、コマとシークエンスの関係性に落とし込んで見せてくれます。

 1988年 中国 黒竜江省ハルビン市生まれ

 

埼玉大学  教養学部  美学専攻卒業

ケント大学 美術史専攻 修士号取得

東京藝術大学大学院修了

主な受賞歴

第33回 東川町国際写真フェスティバル赤レンガ公開ポートフォリオオーディショングランプリ(2017)

第 7 回 TOKYO FRONTLINE Photo Award佐々木敦賞(2017)

第18回 写真「1_WALL」ファイナルリスト(2018)

第 8 回  エモンフォトアワードグランプリ(2019)

パブリック・コレクション

モデナ写真財団、イタリア

東川町国際写真財団